413/413   GFB02043  養生堂            楊子謙医話（虚実を詳察して活法を求む）
(13)   95/08/17 09:41

ある女性が消渇善飢を患って数年になります。
ずーっと西医の食事制限を守って来て、体は日に日に痩せて来るし、
心臓がつらくなり、脱力感もひどくなるばかりなので中医に変わることにしました。
多くの医師は胃火熾盛とみなして何度も胃火を泄しましたが
効果がありませんでした。
そこで又滋陰降火に改めましたが、それでも効果は現れず、
症状に改善が無く、尿糖の検査は前と同じく (+++)のままです。
何年にもわたり苦しみが続きます。
楊老がこれを診ると舌体は胖で淡色です。
「食事制限をしてきて何か良い事がありましたか？」
「何もありません。」
「夜中に何度もオシッコに行く事はありませんか？」
「あります。もひとつ大便の量もずっと減っています。」
そこで食事制限を止めて、もっと栄養を取る様にと指示をしました。

処方：杜仲炭・何首烏・石斛・黄耆30　覆盆子12　枸杞子20　天花粉16　生甘草10ｇ

僅か十余剤を飲んだだけで引飲善飢は半減し、
尿糖は (+++)から(+-)に減り、他の症状もみな好転しました。

同行者は「糖尿病の治療には食事制限が大事なのに、どうして止めさせたのですか？」
「それは全く西洋医学の見方です。
中医では肥甘厚味のものが消渇の原因であるとは言いますが、
言葉にこだわりませんし、西洋医学の観点にもこだわりません。
この病気は虚に属するから『虚には補う』と言うのが正治です。
若し食事制限が厳格すぎたら虚弱な体は何から栄養を取れるでしょうか？
疾病はどうして転機を取ることが出来るでしょうか？
胃火と弁証して効かなかったのは、
病気が長期化すると不断に気血津液は消耗しようし、
四十の坂を越えては陰気も半減するし、
『陽が生ずると陰が成長する』という機会も減った為です。
脈象や舌質を見れば更に陰陽倶虚の様子が分かります。
いま思いますに、胃火として治したのは全く虚実が反対でした。
また滋陰しても効果がなかったのは本例には陰虚火旺の標があっても
腎気不足の為に気化が行えず、津液が上を潤すことが出来ず、
肺が乾燥枯干したからです。
腎は二便を司どる。封蔵を固めることが出来なければ津精は流下する。
常に食物や水分から補ってやらなければならない。
例え渇飲多食があっても四診の分析弁証を綜合すれば
消谷善飢・口渇引飲が火熱であると断定はできない。
単純に滋陰増液すれば薬性は凉に偏る。
温陽薬の力を借りて温蒸して初めて気陰は運輸分布し、
気血が充実し、臓腑は栄養を得て機能が回復し、
諸病は治療しなくても自然に消えていくのです。」

楊老は糖尿病を治療するに当たって弁証を重視し、
舌質・舌苔・脈象を注意して観察しました。
五臓六腑の機能、人の精神や体力が全て真気と津液の滋養に
依存すると言うことを認識すれば、
糖尿病・三消病というのは一種の消耗性疾患であるから、
もしも燥熱消水という標だけを見て虚損の本を詳察せず、
清泄ばかりに専念すると生気を断ち切るという害だけが現れ、
清泄去熱の利も得られないものです。
臨床で失敗を見ても尚迷って引き返すことを知らない者が多いのです。
この類の病人の舌質の多くは淡に偏り、
舌苔は少ないか若しくは光っていて無苔か、
或いは薄黄苔で舌面に潤いがありません。
脈象は弦で沈細です。
これは気陰不足か陰陽倶虚の象です。
脈が弦で不柔和なのは陰精が濡らすことが出来ない、
即ち陽気が暖めることが出来ないという兆候です。
肝の有余と誤って泄してはなりません。

たまたま舌質が赤く、苔が部分的に偏厚している者があります。
これは陰血が傷つけられ過ぎて、陽明が燥結に偏った兆しです。
清滋を主佐として宣導するのが良い。
宣導すれば陽明の結を疎し、滞りが無くなる。
同時に中焦の運化機能を促進する。
清滋すれば即ち潤燥退熱でき、
亦「諸の寒剤をやっても熱する者は陰なり」という経旨に合います。
苦寒降泄の法で燥結を散解させようとするのは良くない。

三消病の治療に当たって楊老は
病が上焦にあり消渇を主とする者にはしばしば麦門冬湯加減を用い、
党参・麦門冬の量を多くし、半夏の量を極めて少しにしますがゼロにはしません。
それというのも辛開苦降により気機を宣通し、津液の輸布を達成したいからです。

病が中焦にあり多食善飢の者は竹葉石膏湯加減で
肺胃の津液を養い、肺胃の燥を去ります。

下焦の症で主となるのは増液湯・右帰飲両方の加減変化です。
彼は腎気（陽）が衰えて初めて腎関の不固が出現し、
精微が下泄すると考えていました。
要はその腎関を固め、精微を下失させなければ
必ずや腎気の衰えを救うことになり、暖腎升津して肺は潤いを得ます。
上源が清めば燥が解し、火が降りることになります。

その他に楊老も疾病が速く回復するように
患者にはよくよく酒と房事を戒めていました。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「燕山医話」　張　忠　より