442/442   GFB02043  養生堂            妊娠禁忌薬物
(13)   95/09/24 10:06

歴代の医家が上げている妊娠禁忌薬物は百余種にもなる。
その中の劇毒薬の類は常人でもめったに使わないから、
妊婦なら尚更のこと使わないものだ。
しかし無毒のものや炮製して減毒化した薬味については
「細心にして大胆に、陰陽を弁別して偏を以て偏を治す」ことが必要で、
それは一般の薬物と同様である。

思い出すのは、夏某という29歳の妊婦が妊娠58日目に
急性泌尿器感染にかかった時のことです。
西薬で三日間治療したが良くならず、
尿検では大量の白血球、膿細胞、赤血球が視野一杯に見えます。
そこで中医に転医してきたので、私の所の学生が血淋の治療をしました。
即ち、小薊根・藕節・竹葉・山梔子・黄岑・黄柏・蒲公英・卑解・車前子などの
清熱・燥湿・利水の品で、三剤飲ませても症状は変わらず、
患者は却って腹墜腰酸の感じがしました。
学生は誤診して流産するのではないかと心配して私に治療を頼んできました。

見ると患者は顔が紅く肥満しており、舌紅で苔は黄膩、脈は滑数、
小便は頻尿と熱痛がある。
私の弁証も前の人と同じで、

白茅根・荷葉・木通・車前子・篇蓄・滑石・生甘草・瞿麦・山梔子

学生はこれを見て異を唱えました。
患者は既に流産の前兆が出ています。それなのにどうして大量の
白茅根・木通・瞿麦・滑石などの禁忌薬を使うのですか？
妊婦は血淋にかかって六日経つのに治っていないのは
清熱凉血・利水通淋の剤を使うべきなのに、
学生が薬物禁忌を考えて使わないからです。
それでは病機を誤ることになる。
湿熱の邪が胎児を傷つけると言うのは正しい。
だから尚更、病が去らないでは胎児が安泰で居られる訳がない。
一剤を服し終わって再診した時には諸症は皆除かれて尿検も正常になっていた。
前の方薬は病に的中したらそれで止め、健脾益腎の薬にて善后調理のために
二剤を与えて終わりとした。
後に訪問した時には月足りて女の子を無事安産し、母子共に健康だった。

私はかつて羊水過多の病例に木通・通草・意苡仁などの類を用い、
妊娠悪阻の病例には半夏・伏竜肝を常用し、
妊娠に於阻がある病例には桃仁・紅花などを用いて来た。
三十種近くのいわゆる禁忌薬を一般用量で使って来たが
未だ一度も流産を起こした例はない。

薬物というものは本来偏性を具えている。
その偏性を利用して初めて駆邪が出来、扶正となるのだ。
妊娠禁忌薬を使う時は病に的中すれば直ぐ止める方が良い。
過量に飲んだり長く飲んではいけない。
結局、陰陽を弁え、薬性を熟知し、適切に用いれば流産の恐れは無いと言えよう。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「燕山医話」　楊子謙　より