451/451   GFB02043  養生堂            髪は血の余り
(13)   95/10/04 09:20

私の学友の弟は未だ歳が若いけれど体格が大変大きい。
毎日の勉強に刻苦精励し、体の強いのに任せて朝から晩まで寸暇も休まない。
ところが此の半年来、白髪が日増しに増え始め、情緒も不安定になって来た。
あちこち医者を探し、湯薬・丸薬いろいろ飲んだけれども却って
失眠多夢・心煩易怒の諸疾は増える一方である。
自分で医書を調べ、「髪は血の余り」「腎の華は髪にあり」と言うことを知り、
とうとう七宝美髯丹・首烏延寿片・金匱腎気丸などの薬迄買う始末だった。
しかし、それを飲んでも一向に効果は現れず、白髪は益々増え続け、
夜は一睡も出来ず、その為に精神状態が不安定になり気分は沈んだ。
強い酒で誤魔化そうとしても憂愁はいささかも薄れない。

私の所へ来た時は頭は既に大半が白くなっていた。
前の医師の処方を見ると皆、補血益腎・壮陽固精の品を用いている。
舌は質が絳、苔が黄、脈は弦数、有力である。
とても血虚失養や腎気不足の証とは思えない。
私は次の様に説明した。
「青年は血気が盛んで陽熱の偏盛な者が多い。
又精神的な悩みで血熱が内にこもると髪が栄養を失って白髪になるものだ。
その時は清熱凉血して治すものだが、貴方は補腎益血の品や
おまけに酒やつまみで熱を助けた。
まるで火に油を注ぐ様なもので血熱は益々ひどくなるから
白髪も無くならず、眠ることもままならないのだ。」
患者はこれを聞いても半信半疑だった。
そして隋代の＜諸病源候論・白髪候＞の一節を私に見せるのです。

「腎は骨髄を主り、その華は髪にある。
若し血気が盛んなら腎気は強くなる。
腎気が強くなれば骨髄が充満する故に髪はつやつやと黒くなる。
若し血気が虚せば腎気が弱まり、
骨髄が枯れ尽きるので髪は白く変わる。」

私は笑って答えました。
「巣氏が言うのは本当です。腎虚なら気血が不足して髪は栄養を失い白くなります。
しかし血熱が内にこもってもやはり髪は栄養失調になり白髪になります。
今回は度々温補を勧められ、また酒の力を借りて血熱は相当ひどくなっています。」
豁然と暗雲が開けたのか私に処方してくれるよう頼みます。
私は凉血清熱・去風益腎の法を用い、

処方：牡丹皮・生地・側柏葉・女貞子・黒芝麻・紫根・旱蓮草・桑葉・蚕砂

以上を細末にし、蜜で練って丸となし、一丸は10ｇとする。
毎日朝晩各一丸を服すことにする。
ほかに煙草と酒を禁じて、努めて頭を使わない様にリラックスすることを勧めた。
１クール飲み終わると患者の白髪はもう半分近く減って来ている。
ますます信じて熱心に服薬を続けた。
舌や脈、その他の兼証に従って前方に桑椹子・何首烏を加えた。
四ヵ月ばかり飲んだら既に最初のように髪は黒くなり、
失眠多夢も治っていた。患者共々喜んだものです。

先天的な白髪は稟賦素弱であるから先天を培補し、精血を滋養しなければならない。
老年の白髪は腎気が虚して気血が失栄しているから滋陰補腎しなければならない。
青年の白髪は血気が盛んで陽熱が偏盛し、血熱が内積している者が多いから
清熱凉血法を先ず以てやってみるのが良い。
「髪は血の余り」「腎の華は髪にあり」とは共に先賢の経験の総括である。
しかしその中にも虚実の別、寒熱の差がある事に注意しなければならない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「燕山医話」　李博鑒　より