464/464   GFB02043  養生堂            零金砕玉に思う
(13)   95/12/27 11:37

私の師は陳西源といい河北南宮の人です。
若い時から清太医院の御殿医、呉廷燿（煥臣）に師事していました。
医理に精通し、針灸に長じ、能く諸々の雑病を治していました。
その後も諸先輩の門下に入り研鑽を究めました。
臨床の処方は簡明にして精巧なものが多く、効果の高いものでした。

70年代の初め、“紅眼病”（西洋医学では“伝染性結膜炎”、中医では
“暴発火眼”という）が流行したことがあります。
治療を求めて来た者があって私も色々やってみましたが中々効果が
はかばかしくありませんでした。
とうとう陳師に教えを請いました。
陳師は「この症は風と火に属する。風火が相煽ると発病も急速である。
治療には瀉火散風を主とするが、但し瀉火が中心であって散風は輔である。
火というものは風を得ると益々激しくなり、
風は火に逢うといよいよ急になる。
火を瀉せば風勢は必ず減る。その症も去らないわけがない。
私は若い時からこれに対しては一つの処方を知っている。

菊花15　紅花・防風・大黄 3ｇ

遠慮しないで使ってみると良い。」
更に併せて忠告として「この方の用量は菊花が多く大黄が少ないが、
しかし大黄が君薬である。大黄で清熱瀉火を狙うのであって攻下を狙うのではない。
菊花・防風で助けて散風明目し、
紅花を配合して止痛消腫すれば症状を除くことが出来よう。
若し目痛が重ければ木賊を加えると良い。」とのことです。
大黄が目の病気を治すのはどうしてですか？　と聞きますと、
陳師は笑って言いました。
「李時珍は＜本草綱目＞の中で《伝信適用方》からの説を引いて
大黄は暴赤目病を治すことが出来ると言っているのを読んだ事がありませんか？
それはこのことです。医者たるものは医学の正論に通曉するだけではなく、
零金砕玉のような経験をもおろそかにしてはならない。」
このことがあってから私はこの処方を多くの“紅眼病”の人に用いています。
大抵は３〜５剤、少なければ１〜２剤で効果が現れます。
医籍の中の名家の大論は勿論精読しなければなりませんが、
零金砕玉もまた珍貴としなければなりません。
小さいからといって捨てて省みないのは実学者としてどんなものでしょうか。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「燕山医話」　袁立人　より