381/381   GFB02043  養生堂            陽気を上げて前立腺肥大症を治す
(13)   95/07/16 10:49

隆閉（前立腺肥大症）については＜霊枢・口問編＞に
「中気が不足すると溲便に変が起きる」と明示されている。
病源を洞察せんとして後世多くの先生方は
“肺は水の上源なり”“腎は開合を司る”の二説に従って立法しているのが常である。
そのあまり気の昇降ということを知らない。
気の盛衰ということを見なければならないのではなかろうか。
気が盛んなら清気は上がり濁陰は降る。
気が衰えれば陽気は上がろうにも上がられず、
濁気は降りようにも降りられない。
胃は多気の府、脾には中気がある。
合わせて気機の昇降の枢である。
故に脾胃が虚せば九竅は不通となる。
ひとり前陰の水閉だけのことではない。

筆者はかつてある老人を治療したことがある。
小便は隆閉し、タラタラとしか出ない。
下腹は張り、寒がって縮こんでいる。
飲食も少なく、これまでに利水法を行ったが悪くはなっても良くはならなかった。
西医の診断では老人性の前立腺肥大症で、
手術以外には無いとのこと。
患者はそれを嫌って私の所へやって来たのです。
脈は細弱、舌は淡で苔は薄い。
四肢は冷たく、中気不足の象が全て現れている。
だから前医が利水剤を用いても証治が一致せず一効も得られなかったのです。
そこで補中益気湯＋桔梗・肉桂・車前子を処方して、
二剤飲んだら小便が通ずるようになった。
以後この方を持続して遂に治ってしまった。

耄老の年は天癸が既に尽き、陽気も日に日に衰えている。
幸いにして此の患者は補中益気して治すことが出来た。
補中益気湯は李東垣の補気升陽の名方である。
臨床応用は大変広く、気虚の隆閉を治すのに高年の患者にとっては大変都合がよい。
清・銭鏡湖の＜弁証奇聞＞に曰く、
“治法には至陽の気を上げることが必要である。
気を上げるには胃から始めなければならない。
補中益気湯を用いれば一剤で小便は通じるだろう。”
補中益気湯は脾気を升運するので濁陰はひとりでに降るのである。
筆者は常に肉桂を加えて膀胱の気を化し、
桔梗を加えて肺気を升提している。
上の水門が開けば河の支流も開けるということだ。
つまり補気升陽の大法は中気虚の隆閉を治すことになる。
陽気を上げて隆閉を治すのはトンネルを開けることではなく、
根本的な治療法と言うことが出来る。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「南方医話」　章柏年　より