916/916   GFB02043  養生堂            八宝片子ﾝ廣
(14)   95/07/30 08:55  913へのコメント

「八宝片子ﾝ廣」（やまいだれ）は福建省ｼ章州市璞山岩僧の秘伝の処方であり、
 300余年の歴史がある。
福建省以南一帯を主とし、南洋へも少量送られている。
その効用は卓越しており、臨床応用は広い。
従って国内のみならず海外にも評判が高い。
解放後は大量に生産されるようになったが、それでも需要に追いつかない。

60年代の初め、一人の還暦を迎えた病人がやって来た。
病人の姓名は胡といい、海外での在住歴40年になる華僑で、肺癌を患っていた。
海外でもしばしば著名な西医にかかり巨額な費用を使ったが、
病勢は日増しに重くなり、当地の西医は
「治す薬がない、長くて三ヵ月の命だろう。」と言っている。
老華僑はどうせ死ぬなら故郷で死にたいと帰国したのであった。
彼は痩せて骨ばかりで、話し始めるとゼイゼイするし、
胸痛があり、痰には血が混じり、癌の末期で険悪な様子であった。
白花蛇舌草・魚腥草・白茅根・半枝蓮などの清熱解毒の大剤を処方する一方、
毎回、片子ﾝ廣 1.2ｇを一日三回併用させた。
かれこれする内にいつの間にか半年が過ぎて、
その老人は死なないのみか却って病状が好転してきた。
咳喘・胸痛の諸症は軽くなり元気になり、
年末には再出国して一年以上経ってから亡くなった。
この事が当地の華僑達及び医界に広まって祖国医薬の霊験に驚いている。
片子ﾝ廣の価格はこれが為に倍増した。

この老華僑は癌を患って苦痛が解けたけれど病気が治ったのではないし、
生存期間を長引かせただけだが片子ﾝ廣の効果が無いとも言えない。
この経験から各種の癌に片子ﾝ廣を用いて皆緩解や苦痛の減少があった。
それは消化系の食道癌・胃癌・肝癌にもっとも効果があった。

片子ﾝ廣の効用は癌に限らず用途は大変に広く、消炎止痛に特徴がある。
既に内科の肝炎・腎炎にも用いられており、
また跌打損傷・刀傷槍傷・火傷にも、
更には廱疽疔*節・無名腫毒・毒蛇咬傷などにさへも用いる事が出来る。
その用法は内服良し、外用良し。
内服には一般に 0.6ｇ／一回を水に溶かしたり、そのまま送服したりする。
小児には加減し、重病者には増量する。
外用には温茶水か湯冷ましで溶かして患部に塗る。
処方中には芳香性の開竅品が含まれているので妊婦には禁忌である。
病気に陰虚津損がある様なら養陰滋液の品を配合して
香燥耗陰の弊害を防がなければならない。

私はかつて楊氏の婦人を治療した事があるが、
咳嗽を一年ばかり患っており、二月には益々ひどくなり、
近頃では発熱に胸痛があり、痰は粘稠で腥い臭いがする。
口は乾き、尿は黄色、舌は紅く苔は厚膩、脈は数である。
Ｘ線で診ると右肺の上中外区に丸く透明な部分があり、貯留液面が分かる。
西医の診断は肺膿廱で西薬の治療を受けたが余り効果はなかった。
私が診るとそれは風熱薀肺で肺が清粛を失し、熱壅血*於となった肺廱である。
治療法は清熱解毒・化*於排膿となる。
千金葦茎湯加減に片子ﾝ廣 0.6ｇづつを三回／日とした。
五日後には熱は退き、咳も減った。
更に二週間して治癒した。

又かつて陳姓の二才の男子を治療した事があります。
二日前に右足の外側踝を蛇に噛まれたのです。
右下肢は紅腫疼痛し、感覚なし。
足の背および踝の皮膚は青紫色で高熱を伴い、
煩躁して泣き止まず、呼吸は急迫し危険な状態であった。
西薬で局部の封鎖治療を受けたけれども好転しなかった。
私は蛇毒の内侵で熱毒壅盛と診て片子ﾝ廣 0.6ｇづつを三回／日とし、
田基黄の粉末を楠木の箆で酒と混ぜて患部に塗った。
その日の内に疼痛は減り、気持ちも穏やかになり、
どうやら危機は去ったようである。
更に片子ﾝ廣を 0.3ｇづつ二回／日　服用させ、三日で遂に治った。

「八宝片子ﾝ廣」が卓越した清熱止痛の効果を持っているのは
その製法が精巧で、選薬に厳しく、しかも秘伝の精製法があるからである。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「南方医話」　盛国栄　より