1995年 7月、人民衛生出版社から『中国西洋参』という本が出版されました。
これは中国医学科学研究院・薬用植物研究所の研究員・劉鉄城さん等の合作によるもので、詳しく資料が網羅されています。
西洋参は中薬に属しますが産地は中国ではありません。
とはいえ中国の医薬学家によって認められて世に出たのが最初で、中医薬学理論によってその性味・帰経・功能・主治が決まっています。
中国では西洋参を応用し始めてから３００年の歴史があり、医薬文献に収載されたのも中国が最初です。
当時はまだアメリカ合衆国建国前で、カナダや西欧諸国の歴史上の文献にはまだ西洋参の薬物としての記述はありませんでした。
歴史資料の考証によれば西洋参の原生地は大西洋沿岸で、北米原始林に古くからある植物です。
昔は当地のインディアンがその茎や葉を採って食用にしたり、また清熱薬として治病に使っていました。
1670年頃、フランスの牧師が我が国の遼東地区に伝導に来て、そこで多くの人達から人参が神草であるとの話を聞き、興味を持ちました。
彼は『ダッタン植物人参』と題して長白山人参の形態特徴と薬用価値を述べ、植物図を添えて英国皇室協会の会報に発表した。
彼は又カナダのモントリオール在住のフランス人伝導士に費用を払い、当地のインディアンの手を借りてモントリオール地区の大西洋沿岸の林中で中国人参に似た野性植物を探した。
それをフランスのパリの植物学者に送って鑑定を依頼したところ、Panax,quinqueifolium,L, と分かり、同属のウコギ科植物ではあるが同種ではないことが分かった。
彼等は中国人参と区別して、大西洋沿岸の林中で採集したことに因んで“西洋参”と命名した。
現地では用途も販路も無かったのでこれを中国の清・太医院へ送った。
清の康熙３０年といえば紀元1690年に当たり丁度、康熙皇帝が満清の祖先発祥の地を重んじて康熙２５年頃から長白山の一木一草に至るまで森林伐採を禁止した時です。
違反すれば軍隊に入れられるか重ければ死も免れなかった。
数年間もこの広大な地区からの人参の供給が途絶えると、人参は先ず高麗参（中国人参と同一物）、更には日本の東洋参さへもが中国へ輸入されるようになりました。
そこへ西洋参も送られて来て清の太医院の御医達に研究鑑別され、中医薬学的に性味・帰経・功能が決められたのです。
丁度、安徽省の休寧人、清代初めての儒医・汪昴（仞庵）らが『本草備要』を編纂していて間もなく完成という時だったが、特に西洋参の項目を新たに加えてもらった。
それには「西洋参は苦甘凉、味厚く気薄し。補肺降火・津液を生じ、煩倦を除く。虚して有火の者に宜し。」とある。
これこそ古今東西で西洋参が医薬文献に収載された最初である。
紀元1756年（清乾隆３０年）に医薬学家の趙学敏（怒軒）によって著わされた『本草綱目拾遺』に収載されている西洋参は、その論述はすべて清の太医院のもので、従って『本草備要』とは基本的に同一のものである。
1772年の清の太医院編による『葯性考』では「西洋参は遼参に似て色白く泡立ち、味も人参に類似している。ただ性は寒甘苦で補陰退熱する。姜制は益元して正気を扶ける。」とある。
以後の本草書籍では等しく「西洋参は性凉、味苦で微甘、肺胃の二経に入り、功能は補陰・生津・止渇である。」と記述されている。
知られている通り、中国の紅人参は温補に属するが西洋参は凉補に属し、治療効果には各々長短がある。
病患の実際の需要に応じて選用すべきで、どちらが良くてどちらが劣ると簡単には言えない。
清末の河北・塩城の名医・張錫純が著した『医学衷中参西録』では「西洋参は性凉で気分を補うが又血分も補益する。
凡そ凉補が必要で温補に適さぬ者は皆これを用うべし。」と論じている。
1852年、清の咸豊２年に王士雄（孟英）が著わした『温熱経緯』で清暑益気湯に汪夢隠の経験を引用しており、金元の名医・李東垣の著・『脾胃論』に立方してある清暑益気湯の中の人参は西洋参に改めて初めて効果を発揮する。
北京の薬店で、ここ１００年間製造販売されてきた洋参補肺丸も起源を逆上れば清の『済生抜粋』の清金丸の人参を西洋参に改め、良い臨床効果を収めたので新たに命名したものです。
上述の２方で西洋参に改めたのは共に補肺・養陰・生津・除煩の功能だったからである。
同時に夏期などで、年齢が若くて平素は体質が比較的丈夫な患者が紅人参を服用すると決まって咽干煩躁したり、果ては鼻衂などの副作用を発生するのを防止することが出来る。
西洋参は陰虚火旺の労傷咳嗽患者に適用され、補っても乾燥しないのは良いけれど、しかし老年になり体力が衰えた人の消耗性疾病、例えば癌や肺結核で気血双虧の場合に、殊に冬季や救急の時に独参湯を用いようとして西洋参を持って来たって紅人参ほどの効果は出ないでしょう。
（中国中医薬報 1996.11. 1 より）
カナダで西洋参が金になるというニュースがアメリカに伝わった1730年頃のこと、中国広東省台山県端芬郷の梅氏の兄弟が丁度カリフォルニヤ地区の森林伐採の仕事に携わっていて、カリフォルニヤでも西洋参が発見された。
カナダのものと区別するために星条旗に因んで“花旗参”(American Ginseng)と命名された。
梅氏兄弟はすぐに西洋参を採集して売買する仕事に変わってたちまち巨富を積んだ。
初めはカナダを通して輸出していたが、後には直接中国へ輸出するようになった。
1782年２月にクイーンメリー号は“花旗参”を運んで中国へ向かった。
1841年前後には毎年中国へ野性花旗参６４万ポンドが送られた。
以後数十年の間に野性花旗参は絶滅に瀕しようとした。
それなのに中国では西洋参を使う人がどんどん増えて消耗量も増加して需要供給のバランスが応じきれなくなった。
品物が少なくて価格が高騰し、黄金４両と野性西洋参１両の交換レートとなった。
西洋参の資源問題を解決するために小参を移植栽培しようとする人が出て、“移参”と称した。
十九世紀の２０年代の初期、ニューヨーク、ウィスコンシン州では中国から人参の移植栽培技術を学び、1870年前後には栽培に成功して西洋参を収穫するようになった。
（それが現在の西洋参・花旗参である）
本国では用途がないので依然として中国が主要な対象国であり、価格は野性西洋参に較べてずっと安かった。
とは言っても中国人参の１０倍の値はした。
栽培西洋参が金になる作物となると別の地区でも試験栽培を始めた。
しかし第２次世界大戦の期間、中国は帝国主義の蹂躪に会い、人民の生活は極度に貧困に陥り、西洋参に多量の外貨を払うことは不可能になった。
加えて交通運輸の遠いことが原因でアメリカ、カナダの人参農産業は発展困難になった。
1960年前後、国際貿易は次第に開通し、西洋参が香港を経由して中国内地へ持ち込まれるようになって来た。
農業の機械化が進み、西洋参農産業は再び勢いを盛り返し、アメリカの花旗参は年産２万ポンドに、1995年には年産２００万ポンド（８００余ｔ）にも増えた。
アメリカ、カナダ両国の西洋参の生産高は約１０００ｔで、その８０％は香港を経由して中国内地へ入っている。
統計によれば1977年には、香港で扱われた西洋参はアメリカ２０８ｔ、カナダ１７ｔだったのが、1980年にはアメリカ２２５ｔ、カナダ２７ｔへ、1990年には両国合わせて８００ｔに達した。
このように大量に外貨を消費していいのだろうか？
中国では西洋参を栽培出来ないのだろうか？
出来た西洋参の質量が輸入物と異なるのだろうか？
今世紀の４０年代に江西廬山植物園の科学者、陳封懐先生が外国から西洋参の種子を取り寄せ試植し、1948年には移植に成功している。
しかし当時は戦乱の最中で資金欠乏から中断されていた。
６０年代になって中国医学科学研究院薬用植物研究所はいち早く移植に成功し、吉林・遼寧・陝西等の地でも相次いで移植試験が行われた。
1980年に吉林集安第一人参場は早くも四年生の西洋参を収穫し、その後北京の懐柔・河北省の ｼ豕鹿・山東省の菜陽などの地でも大面積の試植が展開された。
サポニンや蛋白質、その他金属類の全ての項目に於いて輸入品に劣らないことが分かって、1989年より懐柔産のものが最初に薬用に認められた。
現在我が国では年産８０〜１００ｔの西洋参が自給されているが、それはまだ需要の１０％にしか過ぎない。
（中国中医薬報 1996.11.15 より）
